284,「モノ作り人材の流失」

05/07/08


みなさん、こんにちは。坂口昌章です。
世の中って面白い。いつも、業界がどうの、日本がどうの、と言っている人
に対しては、「このままでは日本は駄目になる。何とかしなくちゃ」と言う
が、常に、自分の利益しか考えない人には何も言わない。でも、業界を本当
に動かしている人は、自分の利益だけを考えている人だったりする。だから、
世の中変わらない。

大上段に振りかぶるのもいいけど、少々疲れています。世の中は市場で変わ
る。補助金や行政の政策で変わるわけではありません。
そこんとこ、よろしく。


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「モノ作り人材の流失」

モノ作りの技術者が海外に流失している。業界や産業単位で考えれば確かに
由々しき事態。でも、個人で考えたらどうだろうか。

日本は中小企業の比率が高い。大企業は部品の在庫リスクや雇用リスクを下
請けにリスクヘッジしていた。そして、系列と分業を同時に押し進めた結果、
効率の良い日本型サプライチェーンが出来上がった。

しかし、全体の生産量が減少することで、各工程が採算を割りつつある。分
業体制の崩壊であり、産地の崩壊である。そして、技術者は解雇された。そ
の技術者を中国や韓国が熱心に採用している。彼らにとって製造業は成長産
業であり、技術者は利益の源泉である。

こうした現象は今に始まったことではない。中国が世界の工場となる最初の
一歩は日本との合弁企業だった。そこにも、多くの日本人技術者が技術指導
を行なっていたのである。但し、その頃は出張ベースだった。今は、単身赴
任であり、現地に骨を埋めようとしている人も少なくないだろう。

こうして製造業の空洞化は進み、中国の製造業のレベルは上がっていく。
「これは大変だ」ということで、行政や団体が技術者流失を防ごうとしてい
るのだが、根本的な問題を解決しない限り、技術者の流失は止まらないだろ
う。

技術者の流失を止めたければ、技術者を厚遇すればいいのだ。ホワイトカラ
ーの給与を下げて、技術者の給与を上げればいい。しかし、自分の給料を下
げてまで、技術者の給料を上げようという経営者はいない。役人も同様であ
る。自分の給料を下げて、技術者に振り向けるとは考えない。

同様のことは、様々な職種に言える。アパレル業界ではマーチャンダイザー
の育成が急務だという。それなら、管理職の給与を下げ、マーチャンダイザ
ーの給与を上げればいい。そうすれば黙っていてもマーチャンダイザーを目
指す人間は増える。テキスタイルに詳しい人材がいないという問題も同様だ。
テキスタイル企画担当者に高い給与を保証すればいい。

産地の崩壊が心配ならば、アパレルや小売業企業が、原価を上げればいい。
縫製工場の淘汰を嘆くのならば、縫製工賃を上げればいい。非常に簡単な話
なのだ。

結局、空洞化を含め、その人のことを心配しているわけではない。それらの
人を安く使えなくなった業界や業者、経営者が困っているに過ぎないのだ。

中国に渡った技術者に会うと目が輝いている。自らの技術を正当に評価して
くれるのであれば、相手が中国人でも日本人でもいいのだ。自分のことを尊
重し、自分の教えを夢中になって吸収してくれる後継者がいれば、その人の
国籍は関係ない。

中国に渡った技術者の技術が永遠に中国に根付くかどうかは分からない。繊
維が儲からなくなれば、繊維以外の分野に簡単に天候するのが中国人経営者
である。しかし、日本人だって彼らの技術を継承できるかは分からないのだ。
日本の利益分配構造が製造業に薄ければ、誰も製造業に就きたいとは思わな
いだろう。書店に行けば、「苦労しないで金儲けができる」本が平積みされ
ている。こんな環境で技術者が育つはずがないではないか。

企業のグローバル化を進めるのであれば、個人のグローバル化にも理解する
べきである。


執筆担当:
有限会社シナジープランニング( http://www.j-fashion.net/ )
( http://j-fashion.cocolog-nifty.com/ )
代表 坂口昌章
文化服装学院客員教授
ジャパンクリエーション・総合コーディネーター
文化女子大学特別講義講師 他歴任