271,コミュニティへの貢献とプロの仕事

2005/03/25

みなさん。こんにちは。坂口昌章です。
10年以上住み慣れた東京の下町、谷根千を離れることになりました。千駄
木の事務所は3月末に畳み、本社を自宅に移転します。その後、活動拠点を
上海に置こうと計画しています。もちろん、行きっぱなしというわけではな
く、日本との往復生活になるでしょう。

この決断は非常に辛いことでもあり、同時に非常に楽しみでもあります。こ
れまで長年取り組んできた仕事がなくなってしまうかもしれない辛さと、新
しい生活に対する期待が交錯しています。それでも自分の決断は正しいとい
う確信を持っていますし、この決断が揺らぐこともないでしょう。

ここ十数年は、日本の産地の仕事をさせていただき、それが私の生活を支え
てきました。全国の産地の皆様には厚く御礼を申し上げたいと思います。そ
して、今後は新しい取り組みを考えたいと思います。
ありがとうございました。そして、今後ともよろしく。


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「コミュニティへの貢献とプロの仕事」

日本では一般的にお金の話をすることは好まれない。得意先の紹介、販売先
の紹介、求人の紹介も頼まれば無償で行うのが普通である。もちろん、相談
に乗るのも無償であり、それが仕事に関することでも通常は無償である。こ
れが拡大解釈されると、商品企画も戦略立案も無償になる。他に仕事を持っ
ている人が、専門の仕事以外のことについて無償で相談に乗るのは問題ない
だろうが、我々のようにコンサルティングを生業とする人間にとっては死活
問題である。

更に問題なのは、特定のコミュニティに属している者は、そのコミュニティ
に対して貢献するのが当たり前だという認識だ。私はここ十数年、繊維産地
の活性化や中小製造業のためのアドバイスや提言をしてきた。私としては、
あくまで仕事の一環であり、同時に、自分の立場を「繊維産地の中小製造業
の味方」に置いてきた。そういう意味で、私を「繊維産地中小製造業コミュ
ニティに所属している人間」だと認識もらっても一向にかまわないのだが、
「だから、無償で繊維産地中小製造業者のために働くのが当たり前だ」と思
われるのはとても困る。私は公務員ではなく民間人であり、仕事の収入で家
族の生活を支えなければならない。しかし、私の仕事は無償だと思われてい
るのだ。

収入が減れば、家族を支えるためにも仕事を変えなければならない。仕事を
変えることは、特定のコミュニティの離脱を意味する。日本社会にとって、
コミュニティの離脱という意味は非常に大きい。ライブドアのように、無理
やりコミュニティに土足で上がり込むのも嫌われるが、勝手に離脱するのも
嫌われるのである。

それでも時代の変化に対応するためには自分も変化しなければならない。私
はこの3月末で事務所を閉鎖し、本社を自宅に移す。その後、活動の拠点を
上海に移転させようと計画しているが、まだ具体的な日時や仕事が確定して
いるわけではない。私自身がそう決心しているだけであり、その方向で仕事
を再構築しようとしているのだ。

私は日本という国を愛しているし、日本人が持っている職人気質を愛してい
る。日本の繊維製造業の活性化を願っている気持ちも変わらない。そして、
それにはアジアスケールでのビジネスに転換しなければならないと確信して
いる。

私の中国行きは、自分の仕事を無償から有償に変えるための手段でもある。
プロにとって、仕事の評価は「お金」で計られる。無償ということは価値が
ないということであり、そんな仕事にプライドが持てるはずもない。私は自
分の持っている情報やノウハウは有償の価値があると信じている。それを確
認するためにも中国行きは必然なのだ。

日本企業、特に中小企業が本格的に中国市場に参入してくるまでには少しの
時間がかかるだろう。私は一足早く現地に出かけ、日本のみなさんに役立つ
情報を収集し、何らかのお手伝いをしたいと考えている。但し、今度は有償
で。


執筆担当:
有限会社シナジープランニング( http://www.j-fashion.net/ )
( http://j-fashion.cocolog-nifty.com/ )
代表 坂口昌章
文化服装学院客員教授
ジャパンクリエーション・総合コーディネーター
文化女子大学特別講義講師 他歴任