245,輸出、自立偏重は製造業空洞化を促進する

04/09/03

みなさん、こんにちは。坂口昌章です。

今回は、繊維ファッション産業の政策に対する問題提起です。繊維産業は補
助金漬けの体質と言われます。「補助金など廃止した方が良い」と言いなが
ら申請する企業や団体。やる気のある企業を支援すると言いながら、業界団
体の意見だけを聞いて補助金をばらまいている行政。
どちらも、補助金中毒であり、補助金がなくなれば自分のアイデンティティ
が崩壊するという恐怖感を持っているようです。中毒になると、ビジネスを
正面から見据え、自ら戦略を立案するという姿勢がなくなります。
補助金事業に取り組むことが、バラ色の未来につながるという錯覚に、官民
ともども陥っているような気がしてなりません。そして、既得権益だけを保
護しようという方向に進んでいるのではないでしょうか。

という私も補助金に関連した仕事を受注しています。だから、こういう批判
は、自分のクビを締めることになる可能性大であります。それでも、健全な
批判精神だけは失いたくないと思うのは病気でしょうか。


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◆輸出、自立偏重は製造業空洞化を促進する

現在、繊維ファッション業界の課題は、製造業者の「輸出振興」と「自立化」
が大きな柱となっている。これらの課題には補助金が付いており、国が認定
した課題というイメージが強い。産地や業界団体もそれらの課題に集中して
いる。

しかし、これらの課題にはいくつかの共通した特徴があり、かなりハイリス
クな課題と言える。

まず、輸出も自立もこれまで経験していない分野への挑戦である。経験して
いないのでノウハウもなく、人材もいない。「自社にどのような条件を整え
れば、輸出が可能になるのか、あるいは自立したビジネスが可能になるか」
という明確な条件が分からないのだ。「でも、国が補助金をつけるのだから
取り組むべきなのだろう」ということで、事業を申請する。この段階でも何
も分からない。認定されて補助金がついて、実際に事業を進める段になって
いろいろなことが分かってくる。

例えば、輸出をするには、商標登録やライセンスの取得が必要であること。
輸出業務は商社に頼めばいい、と思っていたのだが、商社も細かい仕事には
対応してくれない。あるいは、思ったほど商社が機能しない。国内で売れな
いから輸出と考えていたのだが、国内で売れないものは海外でも売れない。
出張経費や物流経費などの負担が想像していたよりも大きく、採算が取れな
い。自社製品に自信を持っていたが、実際に海外市場には同様の商品がはる
かに安い価格で出ていた…等々。

自立事業も同様である。店舗を作れば自社の製品が安定して販売できると予
想したが、一店舗で売れる数量は少なく、反面、商品のバリエーションが必
要であり、店頭在庫の負担が大きい。商標登録すればブランドになると思っ
たが、ブランドを認知させるための宣伝広告のことを考えていなかった。自
社製品の売上は季節的にバラツキがあり、年間を通じて店舗を運営すること
は不可能だった。小売店には小売店の厳しい競合が存在した。小売店運営の
基本的な知識やノウハウがないために、売上が悪くてもどのように対応して
いいか分からない。製造業では想像できない速さで赤字が増えていく…等々。

おそらく、どちらの課題も成功する確率は1割以下ではないだろうか。つま
り、輸出と自立だけに経営を集中すれば、あっという間に9割は赤字を抱え、
あるいは赤字を増やし、倒産か廃業に追い込まれるのである。

繊維ファッション政策で常に欠如しているのは、企画力、営業力の強化であ
る。情報システムを導入しても、展示会に出展しても、ショールームを設置
しても、ファッションショーやデザインコンテストを開催しても、企画力も
営業力も向上しない。そして、企画力と営業力がなければ、輸出も自立もで
きない。

輸出、自立というテーマは言い換えれば、業態転換である。卸や小売りへの
進出、輸出や輸入業務への進出である。それを実現するには、本社移転、既
存事業の整理等も必要になるだろう。多くの中小企業は、不振の製造業を抱
えながら、新規事業に投資するほど余裕はない。どちらを選ぶかの選択が迫
られるのだ。しかし、補助金は、製造業の保護が目的であり、製造業から他
の業態に転換した業者は対象にならない。補助金をもらうために、現業を保
護し、その補助金で業態転換を支援するところに根本的な矛盾がある。自己
矛盾を抱えながら、利益を上げられるほど、現在のビジネス環境は甘くない
のである。

執筆担当:
有限会社シナジープランニング( http://www.j-fashion.net/ )
( http://j-fashion.cocolog-nifty.com/ )
代表 坂口昌章
文化服装学院客員教授
ジャパンクリエーション・総合コーディネーター
文化女子大学特別講義講師 他歴任