233,グローバル産業への脱皮が求められるアパレル産業

04/05/28

みなさん、こんにちは。坂口昌章です。
東レ経営研究所発行の「繊維トレンド」5.6月号に寄稿しました。
内容は、日本のアパレル業界への提言という大上段に振りかぶったものです。
特に、生産を商社に丸投げしている現状への危惧と今後のビジョンについて
書いたつもりです。

これからも、大きなことから小さなことまで、ファッションビジネスのこと
なら坂口昌章に任せてチョーダイ。(長文のため後半は次号でお届けします)


===================================

◆グローバル産業への脱皮が求められるアパレル産業
 〜商社への生産丸投げの次に来る問題点と展望〜

【1.百貨店の「派遣+委託」、アパレルの「商社丸投げ」】

百貨店の構造的な問題は以前から指摘されている通り、派遣販売員と委託仕
入れである。

百貨店側は不良在庫を抱えるリスクを回避し、同時に販売員の人件費を削減
できる。アパレルは、百貨店の売場を自分の店のように自由にコントロール
することが可能になる。完全買い取りの場合、店頭の不良在庫が増えれば新
しい商品を入れられないが、委託仕入れであれば、商品を交換することがで
きる。基本的に買い取り条件のアメリカの百貨店では売れ筋商品ばかりに偏
り、アパレル側が実験的な商品を展開できないという欠点もある。その点で
は、「委託+派遣」のメリットは存在する。

一方で、百貨店は価格決定権をアパレルに握られ、また、自社で売り切る販
売機能や商品の選択眼を次第に失っていった。効率を追求し、業務をアウト
ソーシングしたことで、その業務を遂行する能力を失ったのだ。リスク回避
という行為には、必ずこうした危険性が潜んでいる。

同様のことがアパレル企業で起きている。かつて、アパレル企業は生地を仕
入れ、縫製工場に発送し、生産管理、品質管理を行い、工場をコントロール
してきた。現在では多くのアパレル企業がその機能を商社に依存している。
また、商品のデザインやパターンメーキングについても、商社傘下の企画会
社にアウトソーシンクする例も増えている。アパレル企業は縫製工場の生産
スペースを埋めなければならないという呪縛から解き放たれ、また、デザイ
ナー、パターンメーカー、生産管理者を雇用するコストを軽減することがで
きた。

それらのメリットと引き換えに、アパレル企業内にモノ作りの知識やノウハ
ウが失われつつある。産地、テキスタイルメーカー、縫製メーカーとの関係
も希薄になり、完成した製品をセレクトしているに過ぎないブランドも多数
存在しているのである。

【2.大手小売業の国際競争力とは何か?】

百貨店が場所貸し業になり、アパレルが小売業になる。それでもいいではな
いか、という意見もあるだろう。顧客からすれば何も困らない。互いに利潤
をあげているのだから企業としても問題はない。しかし、ここで考えなけれ
ばならないのは、そうした業態が国際競争力を持ちえるか、ということであ
る。

小売店の国際競争力とは何だろう。

第一は「店舗展開のスケール」である。展開店舗が多いことは、市場シェア
が高いことであり、商品調達でも優位に立てる。しかし、日本という限定し
た市場においては、店舗展開にも限界がある。

第二に「商品調達力」である。最適の仕入れ先から必要十分の商品をいかに
低コストで調達するか。世界中のメーカーを常にリサーチし、常に鮮度の高
い商品を揃える能力が求められる。

商品調達力を高めるには、特定の仕入れ先に依存することなく、自社で仕入
れ先を開発し、魅力的な商品を選択するバイイング能力が求められる。

第三に「物流機能の整備」である。今後は店頭販売だけでなくインターネッ
トを活用した小売りも増える。また、将来的に中国等で店舗展開する可能性
もある。それらの場合を考えても、物流機能が整備されていなければ、事業
を展開することは難しい。

現在の大型小売店は納品代行業者や仕入れ先の物流センターにその機能を依
存している。

第四に「接客及びサービス展開の人材育成」である。最終的に顧客満足を獲
得するのは接客する販売スタッフである。人材は最大の小売業の資産であり、
優秀な販売スタッフを確保し、教育することが販売のサービス向上につなが
る。

派遣販売員制度は、リスク回避にはなっているが、販売員教育や人材育成と
いう意味では十分に機能していない。

第五に「店舗環境、演出力」である。小売店のブランド価値を高め、優秀な
テナントを集め、買物という行為に価値を持たせるには、店舗環境の整備が
大きなポイントになる。

ブランドショップの店舗環境と演出力に依存しているだけでは、小売業とし
てのステイタスは保てないだろう。

第六に「顧客管理能力」である。上質の顧客に支持されていることが一流小
売店の条件であり、そのためには顧客をきちんと管理し、顧客一人一人の満
足を高めていく必要がある。

顧客カード等を発行して顧客管理を行う例も増えているが、デジタルな管理
だけではなく、販売員と顧客というアナログな管理がより重要であることを
考えると、できれば、自前の販売員が望ましいことは言うまでもない。

以上のことを総合的に考えると、日本国内市場で最も適したシステムだった
かもしれないが、国際競争力という視点では構造的な問題が内在していると
いえるだろう。

【3.アパレル企業の国際競争力とは?】

同様に、アパレル企業の国際競争力について考えてみたい。

第一に「ブランド力」である。日本の大手アパレルの特徴の一つとして、ラ
イセンスブランド比率の高さがあげられる。元々、日本のアパレル産業はア
メリカのアパレル企業のライセンスから始まったと言ってもいい。国内のオ
リジナルブランドという意識が明確に出てきたのは、70年代半ばから始ま
ったDCブランド以降である。

ライセンスブランドはライセンサー企業との契約であり、永遠に続くとは限
らない。ライセンサー企業の戦略転換やM&Aによる経営者の交代などによ
り、ライセンス契約を打ち切られる事例も数多いのである。多くのアパレル
企業は、既存のライセンスブランドの既得権を守りながら、新ブランド開発
を目指しているが、その成功率は高いとは言えない。

第二に「商品開発力、商品生産力」である。異業種にも工場を持たないファ
ブレスという業態は存在する。縫製工場を持たない日本のアパレル企業もあ
る種のファブレスである。しかし、元々ファブレスであったアパレル企業が、
更に生産管理や商品企画をアウトソーシングしているという事実が問題なの
である。

ショップ運営まで行うSPA型アパレル企業は、ブランド・プロデュースこ
そコアコンピタンスと位置づけ、工程別コスト分析を行った結果、生産管理
をアウトソーシングするに至った。服の仕立てや素材よりも、ショップデザ
イン、接客サービス、広告宣伝、マーケティング戦略等を重視してのことだ
が、これはヤング向けカジュアルに限定した戦略だった。

しかし、服の仕立てや素材の差別化が重要な要素となるミセス向け商品につ
いても、商社への生産丸投げが増えている。仕立ての良い服は欧米の一流ブ
ランドに任せて、自分たちはその下のランクを狙うという戦略だろうか。

価格訴求の商品、ヤングカジュアルのボリュームゾーンは、将来的に中国、
台湾、香港、韓国等のアパレル企業との競争が待っている。日本国内だけを
見れば、商社に生産管理を振ることで海外生産が可能になり、価格競争力を
獲得することができたアパレル企業も多い。しかし、日本の商社と中国のア
パレル企業のどちらに価格競争力があるのかを冷静に考えるべきだろう。

第三には世界市場を対象にした「マーケティング力」である。最早、アパレ
ルビジネスはグローバル化している。日本のアパレル企業の顧客は同時に欧
米のアパレル企業の顧客でもある。世界の生産基地で商品調達を行い、世界
規模で店舗展開を行っている企業と国内限定の企業が競争する場合、どんな
要素で優位に立つのか、という戦略を明確にしておかなければならないだろ
う。

日本市場は日本語という非関税障壁が存在する。同時に、日本の顧客はファ
ッション雑誌等の情報媒体の影響を強く受けるという特性を持っている。日
本語の雑誌への影響力は日本企業の方が優位に立てるはずなのだが、ファッ
ション雑誌に欧米の一流ブランドがあふれているのが事実である。
執筆担当:
有限会社シナジープランニング( http://www.j-fashion.net/ )
( http://j-fashion.cocolog-nifty.com/ )
代表 坂口昌章
文化服装学院客員教授
ジャパンクリエーション・総合コーディネーター
文化女子大学特別講義講師 他歴任