226,CEPA活用による中国市場攻略の可能性 04/03/26
みなさん、こんにちは。坂口昌章です。 =================================== ◆CEPA活用による中国市場攻略の可能性 1.国内の繊維中小製造業者による輸出振興 明治から始まった日本の繊維輸出ビジネスは、70年の日米繊維交渉決裂と それに続く対米繊維輸出の自主規制、二回のオイルショックと85年のプラ ザ合意と円高誘導により、息の根を止められた。 この間、紡績、合繊メーカーは次々と生産拠点を海外に移転し、国際分業体 制を確立した。78年の中国の開放政策により中国はアジア生産の中核に躍 り出、89年の天安門事件などの反動もあったが現在に至るまで成長を続け、 世界の工場と言われるまでになっている。 国内需要を頼りに細々と生きてきた中小の繊維製造業者は、中国からの輸入 と製品価格の下落に苦しめられ、2001年には中国に対して四国タオル工 業組合が繊維セーフガード発動の要請を行った。しかし、既に量販店や商社 は既に中国生産体制に移行しており、また、製造メーカー自身も中国生産で 活路を見いだすという動きもあって、繊維セーフガード発動は著しく困難な 状況に陥っている。 一方で、「輸入を制限するのは困難だから、むしろ輸出を振興して国際競争 力をつけるべし」という意見も出てきた。わが国最大の繊維総合見本市であ るジャパン・クリエーション実行委員会では、2000年に海外輸出振興グ ループを結成。2001年には輸出振興委員会に格上げした。2002年に はニット工連が輸出振興のためのグループJAKETをするなど、急速に輸出振興 に対する関心が高まっている。2003年のインターテキスタイル上海にお いては、日本からの出展企業が初めて「ジャパン・パビリオン」という形で 合同出展した。 業界新聞等を見ている限り、繊維輸出ビジネスは着々と進行しているかのよ うな印象を受けるが、実際には海外見本市への出展、海外でのショールーム 開設の検討の段階であり、まだ実績を上げるまでには至っていない。輸出に 関する戦略的アプローチは今後の課題と言えよう。 また、前述したように、大手紡績や合繊メーカーは既に生産拠点の大半を海 外に移転していることから、むしろ課題は海外市場開拓であり、三国間貿易 である。輸出振興というテーマはあくまで国内中小製造卸業者の課題である ことを再確認しておきたい。 2.海外生産と海外市場進出とは根本的に異なるビジネス 海外市場、特に中国の経済成長と共に注目を集めている中国市場への進出に おいては、中国での合弁企業の設立等の経験を持つ人々が、中国ビジネスの 要点等を解説することが多い。しかし、こうした意見には注意すべきである。 確かに、勝手の分からない中国で法人設立の手続きをしたり、法務や労務の 問題で苦労を重ねて、ようやく経営を軌道に載せたという苦労は理解できる。 しかし、中国における日本の独資企業や日中合弁企業の多くは、日本への輸 出がビジネスの中心であり、あくまで日本企業、日本人の消費者を対象にし たビジネスである。 中国への内販あるいは中国市場への進出は、中国企業あるいは中国の消費者 を対象にしたビジネスを意味する。日本相手のビジネスであれば、日本国内 のビジネス手法や商慣習が通用するが、中国相手のビジネスでは中国のビジ ネス手法や商慣習を日本企業が取り入れなければならないのである。 日本であれば、展示会に出展して受注を受ければ、商品を送り、請求書を送 れば、相手が代金を振り込んでくれる。しかし、中国では輸出入のライセン スを持っていなければ貿易はできない。また、生産のために設立した日本の 現地企業は卸売や小売を自由にすることができない。日本ではあまり理解さ れていないが、中国は基本的に契約社会であり、よく理解していない相手と の口約束は信用しない。日本のように商品を最初に送ってしまえば、相手は 商品を入手したのだから代金を支払う必要がなくなる。電話一本で口頭で売 買契約を結び、請求書一通で自動的に回収できるというのは、信用を基本に した日本国内の日本人同士だけで通用するビジネス形態であり、それを中国 にあてはめるのは無理がある。中国でビジネスをするのならば、中国式のル ールを守らなければならないだろう。 中国の展示会に出品したり、ショールームを開設することは、中国企業に対 して日本製品をアピールすることにはなるが、それと商売とは分けて考えな ければならない。 3.FTA(二国間自由貿易協定)を軸とした輸出ビジネス 世界貿易機構(WTO)では多国間貿易のルールを定めているが、利害の対立 する先進国と発展途上国が共通のルールのもとに自由貿易体制を構築するこ とは、次第に困難と捉えられている。2003年9月の第5次WTO閣僚会 議では、閣僚宣言文の合意に失敗して宣言文を採択せずに閉幕した。 FTAは当初、閉鎖的な経済ブロックと見られていたが、最近ではWTOの 下での貿易自由化を補完するものと位置づけられ、アメリカ、EU、ASE AN共に積極的にFTAによる自由貿易ネットワークを拡大している。残念 ながら日本は農業問題の影響で、FTAは遅々として進んでいない。(繊維 トレンド2004年1・2月号においても、日本貿易振興機構の伊藤実佐子 氏によってアメリカのFTAとそれを利用しようとする中国企業の姿がレポ ート紹介されている) 日本の輸出振興は中小製造業者が主体であるため、例えば、アメリカに輸出 するためにアメリカとFTAを締結している国に進出しようという発想はな い。あくまで日本にいながら、海外に輸出することを目指しているのであり、 その意味でFTAには関心が薄い。しかし、かつての繊維輸出大国日本から の輸出に対して、欧米諸国は高い関税の壁を崩してはいない。 日本の企業が輸出戦略を考える時、原料から加工、二次加工等を全て日本国 内で行うと非常に高コストとなる。容易ではないが、中国との分業や役割分 担を考えることで製品の競争力を高めることも可能になるだろう。 例えば、テキスタイルメーカーが自社製品を製品化する場合、中国縫製を活 用することで、自社の高いテキスタイルが製品としての競争力を持てるよう になる。また、染色加工業等は中国から安価な生機(きばた)を輸入するこ とで自社の加工製品のコスト競争力を高めることができる。縫製加工業は中 国との分業を考える。手間のかかる作業を中国で行い、最終的な仕上げや付 加価値をつけるための加工を国内で行うことでコスト競争力を高められる。 刺繍や捺染等の後加工では、中国から製品輸入を行い、そこに自社の後加工 を施すことで差別化と製品ビジネスに参入することができる。自社の機能を 生かすために中国と連携するという発想が必要になるのである。そして完成 した製品を中国や欧米に輸出することを考えた場合、日本から輸出した方が 良いのか、それともFTA等でノータックスになる国から輸出した方が良い のかを考えなければならない。こうした戦略の中で、海外に拠点を構える必 要性も出てくるのである。 4.中国が締結した初の自由貿易協定「CEPA」 これまで見てきた通り、日本の輸出振興を結実させるためにも我々はFTA を研究しなければならない。その中で注目されるのが、中国と香港の間で締 結された経済貿易緊密化協定、CEPA(Closer Economic Partnership Arrangement)である。香港製品のゼロ関税、香港企業に対するサービス貿易 開放、貿易投資の簡素化等が主な内容だ。CEPAは基本的にはFTAと同 様の制度だがサービス貿易投資の簡素化も含まれている。中国と香港は一国 二制度という関係であるため、FTAという名称ではなくCEPAになった。 香港は元来、自由貿易港であり、輸入に関税は掛からなかったが、香港から 中国大陸への輸出に関しては関税が課せられ、同時に中国大陸内のビジネス には様々な制限があった。それらの規制を緩和しようというのがCEPAで ある。 CEPAはある意味で返還以後の香港経済低迷の支援策でもある。全面的に 中国の流通開放を行う前に香港を優先することで、先行利益を与えようとい うものだ。あくまで時限的な措置であり、あくまで香港企業の優遇策であり、 香港製品の優遇策である。 日本企業の立場として、CEPAに注目する理由は以下の2点である。 第一に中国市場参入の先行者利益があげられる。中国の流通開放が一斉かつ 全面的に行われるかは疑問である。これまでの中国政府の動きを見ていても、 市場開放に基づく様々な業務のライセンス権は、順次、実績のある企業ある いは政治的判断から選ばれる企業に与えられる可能性が高い。仮に、原則的 には全面的に開放されても、無用な混乱を避けるために何らかの制限は残る だろう。自由主義経済、市場経済の国を標榜する日本でも様々な規制が存在 するのだから、中国が突然日本以上の規制緩和を行うことは考えづらい。中 国国内の実績で判断されるとしたら、なるべく早く中国市場に参入すること が必要になる。 第二にCEPAの利益を享受できる香港企業、香港製品の定義があげられる。 CEPAにおけるテキスタイル、アパレルの「香港製品」の定義は、香港の 原産地規制が適用され、原産地規制の証明書を取得することである。香港と 日本の原産地規制は異なっており、香港では自由港制度を利用することで、 原料や半製品を香港に免税で輸入し、香港の工場に製品の設計・製造・ID 保護段階を管理させることで香港製品として扱われる。また、自社の生産ラ インへの投資、香港工場へのライセンス供与、アウトソーシングによって原 産地規制を満たすことができる。日本企業は既に中国生産が多いのだから、 それを半製品で香港に輸出し、最終加工を香港で行い香港製品として中国に 再輸出することで、ゼロ関税での輸出の可能性が出てくるだろう。香港企業 へのアウトソーシングでどこまで原産地規制が満たせるかは研究の余地があ る。香港製品と認定されれば、香港に法人を設立しなくても、CEPAの恩 恵を受けることができる。 また、サービス業として中国市場に参入する場合は、「香港企業」として認 定されなければならない。「香港企業」の定義は、香港で法人を設立し、3 〜5年が経過しており、法人所得税を納付し、現地従業員を半数以上雇用し ていることとされる。しかし、これもCEPAの資格をもつ香港企業とのパ ートナーシップ、出資、買収等で解決することが可能である。このようにC EPAのメリットを享受しようとすれば、日本企業にも可能性は開かれてい る。 5.CEPAの活用と香港企業とのパートナーシップ 香港製品、香港企業に中国進出の先行者利益を与えるCEPAだが、現実的 に日本企業がその恩恵を受けようとすれば香港企業とのパートナーシップが 欠かせない。CEPAで中国市場への進出が可能になると言っても、依然、 資本金や資産の条件は厳しく、日本の中小企業が対応するのはほぼ不可能と 考えられるからである。 例えば、香港企業が中国で商社、卸売会社を中国に設立する条件は以下の通 りである。CEPA以前、香港企業が中国国内で商社を設立しようとする場 合、一部地域での合弁企業しか認められなかったが、CEPAにより100 %出資の子会社や商社を地理的規制なしに設立することが可能になった。し かし、商社の場合、申請前3年間に中国と年間最低貿易額が1000万米ド ル(中央、西部に設立の場合は500万米ドル)が必要で、最低資本金は2 000万元(中央、西部では1000万元)である。CEPAにより大幅に 条件が緩和されてこの数字なのだから、中小企業が対応するのは困難である。 また、このCEPAの基準は中国が流通開放した場合、日本に提示される条 件と見てもいいだろう。 合弁で卸売会社の場合、外国パートナー企業は申請前3年間にわたって年間 最低3000万米ドル以上の売上、(中央、西部では2000万米ドル)と 申請前年の資産総額が1000万米ドル以上必要。資本金は最低5000万 元(中央、西部で3000万元)である。 小売貿易サービスでは、CEPA後、中国全土に香港企業の100%小売子 会社の設立が可能になり、中国本土の「地級市」や広東省の「県級市」で小 売企業を設立できる。また、100%子会社を設立して、フランチャイズを 提供することができる。合弁で小売会社を設立する場合には、外国パートナ ー企業は申請前3年間にわたって年間最低1億米ドル以上の売上と、申請前 年の資産総額が1000万米ドル以上、資本金は最低1000万元(中央、 西部は600万元)が必要となる。 こう見てくると、中国が完全に流通開放したとしても、中小のアパレル企業 や小売企業は単独では簡単に中国市場に進出できないことがわかるだろう。 現実的に考えれば、既に中国に進出しているか、進出の資格を持つ香港企業 あるいは台湾企業等と連携し、日本企業の製品の販売を委託する方法が優先 されるのではないだろうか。 もう一つの視点は香港企業の優位点である。香港では法人設立が容易である。 会社形態はPrivate limited、必要株主数2人、必要役員数2人、最低資本金 2香港ドル、現地会議は必要なく、役員現地居住義もない。また、香港のペ ーパーカンパニーを買収するという方法もある。香港企業には、自由港制度 の活用、税制上のメリットも多い。香港に法人設立することで、香港華僑と 人的ネットワークを構築し、中国市場参入の足掛かりにするのも有効だろう。 また、中国市場に関する情報を収集しようとすれば、日本よりも香港の方が はるかに有利である。 自社は日本から動かず、欧米や中国市場に輸出するという戦略も悪いとは言 えないが、、自社を国際的に有利なポジションに据え、FTAやCEPAを 活用したビジネスを、香港・台湾・シンガポール等の華僑とのパートナーシ ップによって展開するという選択肢も検討すべきではないだろうか。 執筆担当: 有限会社シナジープランニング( http://www.j-fashion.net/ ) 代表 坂口昌章 文化服装学院客員教授 ジャパンクリエーション・総合コーディネーター 文化女子大学特別講義講師 他歴任 |
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