215,渋谷化するアジアと日本への憧れ 04/01/09
こんにちは、坂口昌章です。 ●渋谷化するアジアと日本への憧れ ファッションの競争とはある意味で文化の競争である。ヨーロッパの美意識 や価値観が最も優れていると考えれば、人々はヨーロッパの文化に憧れを持 ち、進んでその文化を取り入れるだろう。日本では大部分の人が洋服を着て いる。それでも、きものが完全になくならないのは、「日本文化、きもの文 化の方が洋服文化よりも優れている」、あるいは「きものの方が洋服より美 しい」「きものの方が洋服より好き」と考える人が存在するからである。 洋服の原点はヨーロッパにある。本物を志向するならば、ヨーロッパしかな い。ある意味で、日本で作られる洋服はコピーに過ぎない。しかし、ヨーロ ッパにない美意識、価値観に基づいて創造された洋服であれば、日本オリジ ナルの洋服としての価値が出てくる。言い換えれば、日本オリジナルのファ ッションにも存在意義があるということだ。 明治以降の日本人にとって、憧れの対象はヨーロッパとアメリカであり、白 人だった。残念ながら、有色人種の国でヨーロッパやアメリカに匹敵する経 済力を持つ国は存在しなかったのだ。 しかし、アジアの国々の人たちは、ヨーロッパ、アメリカとは異なる「日本」 という憧れの対象が存在する。同じ有色人種だが白人に負けない経済力を持 った国。トヨタ、ソニーといった世界に通用する技術とブランドを持ってい る国。白人文化とはまったく異なる異質の文化を持つ国。ハイテクの国であ ると同時に古い伝統を守る国。 「アジア・マーケティングはここからはじめよう。(博報堂アジア生活者研 究プロジェクト著/PHP研究所)」では台北、香港、上海、北京、ソウル、 シンガポール、クアラルンプール、バンコック、ホーチミンというアジアの 都市が「渋谷化」している状況を描写している。 それらの都市には渋谷の若者と共通する「アジアパワーキッズ」が存在する。 少し長いがアジアパワーキッズの定義を引用したい。「アジア各都市の新中 間層の子供たち。すでに家には一通りの耐久材がいき渡り、子供の頃からお 小遣いをもらって、遊びや洋服など、自分の欲しいものにお金を使うことが できる環境で育った。消費について関心があり、昔の世代と比べると、わが ままである。親は教育熱心であり、情報環境については、マスメディアのみ ならず、IT環境も整っており、グローバル情報を時差ゼロで手にしている。 幼い頃から、日本のポップカルチャー(ドラマ、TV番組、マンガ、ゲーム、 音楽、ファッション、キャラクターなど)に触れてきているので、ここから もたらされる嗜好性や価値観は、日本の若者と変わらない」アジアには、日 本と共通の市場が形成されつつあるというのである。 また同書には、興味深い調査結果も紹介されている。日本製品とアメリカ製 品のイメージ調査で、ほとんどの都市で、日本製品の方がアメリカ製品より も「カッコイイ」「高品質」「楽しい」と解答しているのだ。アジアの人々 は、欧米とは異なる日本をきちんと理解している。 ●ずば抜けた複合技術、意匠力 アジアの人々にとって日本文化はどのようなイメージなのだろうか。外国人 観光客専門の某旅行代理店の方に伺った話を紹介しよう。 「中国の人にとって日本文化とは手がかかる文化。和食はお膳の中に色も形 も素材も異なる食器が置かれ、それぞれの器の中に料理がきれいに盛りつけ られている。しかも、食べ終わると、仲居さんが順番に料理を運んでくる」 「中華料理は大きな鍋で一度に大量の料理を作り、テーブルの中心に大皿で 並べる。食べる人が勝手に料理を自分の皿に分ける。実に合理的で、コスト ダウンが図れる」 「日本料理はコストダウンが図れない。でも、こんなに面倒なことをする日 本人だから、日本人が作る製品は品質が良く信頼できる」 日本料理と工業製品の共通性を見いだすのは驚きだったが、ある意味で日本 人の国民性を見事に捉えている。 繊維製品における日本の独自性といえば、まずテキスタイルだろう。きもの の生地の中には様々な技法が散りばめられている。ジャカードの地紋に絞り をかけ、その上に手描き友禅を施し、刺繍をする。世界中の民族衣装を見て も、これほど複合的な技法を一つのテキスタイルの中に集積する例は見られ ない。この複合的な技術は産地の分業システムに支えられている。アメリカ、 ヨーロッパ、中国は糸から織物まで一貫生産であり、複合技術は生まれにく い。分業と複雑な流通システムがあってこそ、複合技術が生まれたのだ。 きもので培った図案の意匠力も欧米には見られないものの一つだ。伝統的な 柄としての蓄積も分厚いし、完成度も高い。特に大きな柄を扱う能力に秀で ている。きものから生まれた日本のジャカード織物、刺繍、捺染は、日本オ リジナルに欠かせない素材であり、技法である。 縫製やニットの分野においても、日本人は常に改良、改善を続けている。時 には過剰品質、装飾過剰を招くが、その開発力がずば抜けているのは確かで ある。 欧米の影響を受けなくても、常に新しいモノを生み出すのが日本であり、常 に変化を続けるのが日本だ。最近、欧米のトレンドセッターは日本に新しい デザインリソースやトレンドのシーズを探しに来る。日本は変化を生み出し 続ける。その意味では、最もファッショナブルな国なのかもしれない。 問題なのは、日本のアパレル企業やデザイナーにこのような日本の特性を生 かそうという意志が弱いことである。欧米のトレンドを追随し、コスト競争 に奔走している。アジアの人々が日本に求めるファッションと日本のファッ ション業界には大きな乖離があるようだ。 ●日本オリジナルであれば生産地は気にしない 日本の繊維関連メーカーにとって中国は脅威であり、同時に巨大な市場とし ての魅力にあふれている。日本の繊維業界関係者が北京で中国の業界関係者 にこう話したという。「日本は付加価値の高い商品を作り、中国市場に紹介 したい」暗に安物は中国に任せると言ったのだ。すると中国の業界関係者は 「中国も安物を作らされるのにはうんざりしている。我々も高級品を作りた いので、一緒に手を組まないか」と答えたという。 中国はバブルに近い急激な経済成長を続けており、富裕層も増えている。年 収2千万円以上の人口を比較すれば、日本より多いだろう。最近、一部で香 港への旅行が認められるようになったが、一人当たり平均10万円の買物を して帰るという。かつては日本のOLに支えられていた香港の高級ブランド 店も今では中国人観光客によって支えられているのだ。 中国では、百貨店等の大型商業施設が急激に増加している。消費者は成熟し、 アパレル企業の多ブランド化が始まろうとしている。しかも、中国市場には 日本のブランドがほとんど入っていない。日本のブランドを導入することで 差別化しようという動きは水面下で活発になっている。ただし、彼らが求め ているのは日本オリジナルのブランドである。生産地は中国で良い。生産地 など誰も気にしていないのだ。 この傾向はヨーロッパにも共通している。ジャパンクリエーションの輸出振 興委員会がヨーロッパの展示会に出展しているが、ヨーロッパのバイヤーは ヨーロッパっぽい商品には見向きもしないという。ヨーロッパのバイヤーが 興味を示すのはもっぱら日本らしい柄や日本独自の商品である。でも、価格 が高いという声が多い。日本生産ということを説明しても興味は薄い。中国 生産でも良いからリーズナブルな日本オリジナルの製品を欲しがっているの である。 日本の製造業者はメイド・イン・ジャパンにこだわり過ぎている。日本のア パレル企業は日本オリジナルのブランド開発力が弱い。欧米のコピー商品に 欧米のライセンスブランドをつけて売るというビジネスは日本国内でしか通 用しないのだ。 これまで、大多数のアパレル企業は、日本の伝統や文化に向き合ったことが ない。テキスタイルの企画担当者も西欧のトレンドには敏感だが、内なる伝 統や文化には目が向いていない。これからは業界を上げて、日本の再発見を 行う必要がある。そして、日本のオリジナルブランドを立ち上げるのだ。 日本の美意識、アジアの美意識に基づくコレクションを開けないだろうか。 そこから西欧とは異なるトレンドを世界に発信できないだろうか。日本がま ず西欧のコピーから脱し、独自のファッションを発信することは、アジア諸 国にも大きな影響を与えるだろう。西欧文化一辺倒ではない、多様な文化を 楽しむ市場として、日本は最先端を走っているのである。 執筆担当: 有限会社シナジープランニング( http://www.j-fashion.net/ ) 代表 坂口昌章 文化服装学院客員教授 ジャパンクリエーション・総合コーディネーター 文化女子大学特別講義講師 他歴任 |
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