208,製造業の生き残りと日本のビジネスの生き残り

03/11/21

こんにちは、坂口昌章です。

日本のテキスタイル業界は、インターテキスタイル上海に「ジャパンパビリ
オン」として出展しました。このことはとても良いことだと思いますが、反
面、「日本でジャパンクリエーションをしなくても、皆で上海に行けばいい
じゃないか」という声が聞こえています。正直に言って、非常に恐ろしい発
想です。

見本市とは、出展者のための存在だけではないということを忘れています。
バイヤーのための存在でもあるのです。商品が集まるだけでなく、人が集ま
り、情報が集まります。勿論、商取引の場でもあります。

出展者はどこの見本市でも良いでしょう。バイヤーさえ来てくれれば。でも、
それは自社のブース内だけの話です。ブースの商売だけでなく、見本市の意
味、見本市が生み出す大きなビジネス効果のことをまったく考えていません。

でも、そうした効果を上げるには、出展者の都合だけでなく、バイヤーや商
取引に便宜を図るという発想が不可欠です。その点、日本はまだまだです。
みな、自分の利益しか考えません。本当にこれでいいのでしょうか?


◆製造業の生き残りと日本のビジネスの生き残り

日本の製造業の空洞化を防ぐには輸出が必要である。その理由は、海外に販
路を開拓するというだけではない。国内市場がグローバル化しているために、
輸出できるような製品でなければ国内市場においても海外製品との差別化が
できないのだ。

それなら輸出さえすれば製造業は生き残れるのか。海外の見本市への出展が
積極的に行われているが、そこで販売している製品が最終製品なのか、部品
なのか、ということも重要なポイントである。

車やパソコンを考えても、優秀な部品メーカーとして生きるか、組み立てメ
ーカーとして生きるか、の選択が必要である。優秀な部品メーカーとは、世
界の競争に打ち勝ったメーカーである。おそらく、それぞれの分野で最終的
に数社のみが生き残るだけだろう。部品の優秀性は比較しやすく、曖昧な要
素が入りにくい。競争も分かりやすいのだ。

組み立てメーカーは、デザイン、マーケティング等、性能だけではない要素
が必要になる。パソコンには様々なブランドが存在するが、CPUはインテ
ルが高いシェアを握っている。同じ部品を使い、性能が同じでも、ブランド
の優劣は存在するのだ。

部品メーカーの方が規模が大きく、独占的な存在になり、組み立てメーカー
の方が規模が小さく多様性を持つというのが、消費者起点の工業のパターン
である。部品メーカーは本社の立地も含め、グローバルな生き方が問われる。
組み立てメーカーはそれぞれの市場に合わせた、きめ細かいマーケティング
が必要になる。

製造業の生き残りには、もう一つ別の視点が必要になる。これもパソコンの
世界の方が分かりやすいだろう。情報が集まる見本市や展示会が、ビジネス
に重要な影響力を持っているのだ。部品そのものの売買よりも,最終製品の
取り引きの方が額が大きいのはどの業界も同じである。また、情報が集中す
ることで、投資や企業買収というビジネスも発生する。

以上を日本の繊維業界にあてはめて考えてみたい。まず部品メーカーとして
の製造業の規模が小さく、国際競争力が弱い。組み立てメーカーも、アパレ
ル問屋と縫製メーカーに分離している。アパレル問屋は、生産管理機能を商
社に依存しており、縫製メーカーは下請けに過ぎない。アパレル問屋はブラ
ンド開発力が弱く、ライセンスブランドに依存しているケースが多い。残念
ながら、顧客に密着し、独自のマーケティング展開をしている企業は数少な
い。どちらも独自のブランドでビジネスを組み立てるという競争力が弱いの
である。

日本で行う見本市は、部品メーカーの団体、あるいは部品の賃加工業者の団
体が主催している。自ら出展しているブース内での商売しか考えていないの
で、日本の見本市も海外の見本市も同様に考えている。部品メーカー同士の
競争しか意識していないので、ダイナミックなビジネスをトータルに生み出
すという視点がない。世界中から情報を集積し、新たな投資や起業を生み出
すという発想が持てないのである。

日本の展示会や見本市が国際的な広がりと役割を持ち、世界中の人や情報が
集まるようになれば、そこに市場が生まれ、ビジネスチャンスも生まれる。
日本の製造機能が中国に移転し、国内製造業が空洞化することも恐ろしいが、
もっと恐ろしいのはビジネスの核となる市場そのものが中国に移転し、ビジ
ネスの主導権を中国に奪われることだ。そうなれば、情報も人材も中国に集
中し、企業そのものも中国に移転してしまうに違いない。

執筆担当:
有限会社シナジープランニング( http://www.j-fashion.net/ )
代表 坂口昌章
文化服装学院客員教授
ジャパンクリエーション・総合コーディネーター
文化女子大学特別講義講師 他歴任