165,製造業から創造業への転換、産地から産知への転換

2002/11/01

こんにちは。坂口昌章です。
不良債権解消のために竹中大臣がまとめた政策が不評のようです。
多くの人は「ルールを急激に変えるのは問題だ」と言っていますが、それで
はどの程度の期間でルールを変えれば良いか、という提案はありません。
銀行の経営者も団結して、政策を批判していますが、「自らをどのように変
革し、不良債権を処理しようとするか」という具体的な案は何も出していま
せん。
日本では、責任を持って提案する人は馬鹿を見て、それを批判する人が評価
される傾向が強いようですが、その体質こそ改革しなければならないと思い
ます。製造業至上主義も見直さなければなりません。でも、そういうことを
言うと批判の十字砲火を浴びることになるのでしょうね。
賢い人は黙って、自分を変革していると思います。


◆製造業から創造業への転換、産地から産知への転換

戦後の日本は製造業によって経済発展を遂げた。その成功体験が、製造業こ
そ国の礎という考え方を定着させたのである。しかし、冷静に考えると、製
造業が発展するのは、需要が多く供給が少ない状況下に限定されている。供
給過剰の状況では、製造業は相対的に立場が弱くなる。

日本においては高齢化、少子化の影響も大きい。本来ならば、富める国は人
口が増え続けても良いはずである。それだけの人口を養えるのだから。歴史
を見ても、食料事情が改善されると人口は増えている。

しかし、実際には個人の生活水準が上がり、高コストになるだけで、人口は
増えていない。むしろ、減少傾向が強く、このままでは日本人が消滅するの
ではないかとさえ言われている。生活水準が上がることは、人件費も上がる
ことである。人口が減少し、人件費が上がるのだから、国際競争力のある製
造業を維持することは難しい。そこで、製造業者は活路を海外に見出してい
った。

人口が減少すれば、消費の量的拡大は見込めなくなる。消費を拡大させるに
は、一点当たりの単価を上げることであり、表現を変えれば製品の付加価値
を高めることである。

バブル経済の時には、こうした消費スタイルが定着するかと思われたのだが、
現実は、人件費の低い周辺国に製造業が移転し、安価な製品が大量に輸入さ
れるようになった。完全な供給過剰に陥り、製品価格は下落を続けた。その
影響で、日本国内の製造業打撃を受け、流通業も単価下落により、これまで
のビジネスモデルが崩壊していった。企業の淘汰が進み、失業者が増大した。
デフレスパイラルである。

輸入品が増えたために、製造業者の淘汰は流通在庫の調整にはつながらない。
むしろ、国内製造業者の淘汰が輸入の増大を招き、ますます供給過剰を生み
出したのである。

今後も、日本市場全体では供給過剰が続くだろう。日本市場を対象にする製
造業や産地は、供給過剰を前提としなければならない。

既に、中国市場においても、大量生産の製品は供給過剰に陥っている。これ
からの中国市場は、需要深耕、潜在的需要の発見、需要創出がビジネスの重
要なポイントになるだろう。つまり、日本も中国も、供給の側ではなく、需
要の側を刺激することがビジネスの基本になるのである。「いかに作るか」
ではなく、「何を作るべきか」「いかに需要を創造するか」が問われるのだ。

製造業もまた、性格を変えなければならない。言われた通り、指図通りに作
るのではなく、自らが売れると思うオリジナル商品を製造しなければならな
いのである。即ち、製造業から創造業への転換が求められているのである。

製造業では、いかに合理的に生産するのか。いかに設備の稼働率を上げるか
が課題だった。しかし、創造業においては、設備の新旧や効率はあまり意味
をなさない。効率が悪い生産設備でも高く売れれば良いのである。むしろ、
生産効率の高い製品は、どこでも生産するので価格が通らない。むしろ、希
少価値を訴求できる設備の方が望ましいのである。

これまでの製造業では、設備投資が重要だった。そして、いかに省人化を追
求して、人件費等のコストを下げるかを競い合っていた。しかし、創造業に
おいては、機械設備に投資するよりも、デザイナーやマーケティング担当者
といった人に投資しなければならない。勿論、そのためには下請け的なビジ
ネスではなく、自ら、価格や数量を決定する自立的なビジネスを展開しなけ
れば、人に投資してもコストアップを招くだけだろう。

製造業から創造業への転換は、産地の姿も変えることになる。これまでの産
地は、生産機能の集積地だったが、これからの産地は、知の集積地であり、
知を産み出す地域にならなければならない。即ち「産地から産知への転換」
である。

「産知」とは、才能のある人材が集積する地域である。そのコアは大学等の
教育機関。そして、大学と産業が連携するためのリエゾンオフィスやコーデ
ィネーターの存在。知的資産をビジネス化するベンチャー企業等である。こ
れらがコラボレーションすることで、優秀な人材が集まり、利益率の高い新
しいビジネスが生まれるのである。

これまでの産地は、生産機能だけを担っていた。企画、マーケティング等の
機能は、消費地に立地するアパレル(問屋)企業や小売業に保存していたの
である。

製造業は、豊富な労働力、安価な労働力が不可欠である。しかし、創造業は
豊かなライフスタイルを実現できる環境、個人の才能や実績がダイレクトに
個人に反映される報酬システム、常に市場や情報から刺激を受けられること
が条件になる。必ずしも、低コストを追求するのではなく、むしろ、高い生
活コストとそれに対応した高い報酬を与えられる環境を整備することが必要
なのである。

アメリカはファイナンスやマーケティング機能の充実を目指している。その
種の研究を進める大学やビジネススクールが多く、それらの教育機関と企業
は密接な関係を保っている。ヨーロッパはブランド価値を高めること、付加
価値の高い生産技術を維持することを目指している。美術館、博物館等を充
実させ、クリエーションを支える基盤を整備している。また、業界は、高い
レベルの生産技術を教える教育機関を設置し、これにも企業が連携している。

日本は、コンピュータやITを駆使した生産管理や品質管理等、アニメやゲ
ーム等を含む日本独自のポップカルチャー、日本の伝統コンテンツを掘り起
こすデザインワーク等の教育機関を創設し、それらに密接にビジネス展開す
る企業の連携が求められている。しかし、産学共に旧来の枠組みにしがみつ
いているのが現状である。産学共に目指すべきビジョンを共有化し、明確な
戦略に基づく産学連携が必要不可欠ではないだろうか。

執筆担当:
有限会社シナジープランニング( http://www.j-fashion.net/ )
代表 坂口昌章
文化服装学院客員教授
ジャパンクリエーション・総合コーディネーター
文化女子大学特別講義講師 他歴任

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