079,アジア・ネットワーク研究へのアプローチ

2001/06/03

 来る7月26.27日の両日、東京の文化学園において、「第二回日韓
ファッションビジネス学会学術交流会議」が開催されます。第一回は韓国で開
催され、日本での開催はこれが初めてです。

 26日には、私、坂口昌章も「アジア・ネットワーク研究へのアプローチ」
というテーマで研究報告をすることになりました。

 その論文がようやくできましたので、7回連載で皆様にご紹介します。

 これをご覧になって、「面白そうだから、ファッションビジネス学会アジア
ネットワーク研究部会に入りたい」と思われた方は、是非ご参加下さい。

 論文はここで読めますが、ライブを見たいという方は、今のうち、学会に参
加しましょう。お待ちしています。

 お申し込みは、私あてにメールを下さいね。info@j-fashion.net


■アジア・ネットワーク研究へのアプローチ■

                有限会社シナジープランニング 坂口昌章

1.はじめに                                 
 
 輸入の急増によって、日本国内の繊維関連製造業者は淘汰が進んでいる。こ
れらの製造業者が生き残る可能性はあるのか。また、生き残るには、どのよう
な状況認識が必要で、どのような戦略を立案し、具体的にアクションを起こす
べきなのか。

 その解決策として「アジア・ネットワーク市場」「アジア・ネットワーク・
ビジネス」という仮説を提示し、ビジネス研究としてのアプローチを提案する
のが本稿の目的である。従って、厳密に言えば本稿は研究成果ではない。研究
に向けての考察及び提案であることをお断りしておきたい。

2.アジアネットワークの背景及び考察

2−1.繊維セーフガード発動後の状況と製造業者の課題

 2001年の現段階では、日本国内の製造業者は、繊維セーフガードの発動
等によって急激な輸入増加を回避しようとしている。確かに3年間という限定
された期間の輸入の成長率は押さえられるものの、輸入が減少するわけではな
い。急激な増加が避けられるということであり、2年目以降の年6%の増加は
認められているのである。あくまで対症療法であり、根本的な解決ではない。

 繊維セーフガードを発動した場合、実績のある企業だけが輸入を独占するこ
とになる。中国が拡大生産を計画していた場合、供給過多になり価格が低下す
るのは間違いない。その安い商品を特定の企業が独占的に輸入する権利を持つ
ことになり、場合によっては、現在以上の安売り競争になることも予想される。
繊維セーフガードの発動は、健全な市場原理を崩壊させ、既得権のある企業だ
けを保護する結果となる可能性を持っている。

 つまり、商社や輸入業者の利益には結びつくが、国内製造業者の利益に結び
つくことはないのである。

 繊維セーフガードが発動されている緊急避難の期間に、国内製造業は自らの
体質改善に取り組まなけれはならない。国内製造業が目指すべき方向は 次の
5点のポイントに整理できる。

 第一は、コスト削減等を行い、中国からの輸入品との価格競争に勝てるよう
にすること。

 第二は、中国からの輸入品との徹底的な差別化商品を開発すること。

 第三は、取り扱い商品の変更、新製品の開発、転業等により、中国製品と競
合しない商材を扱うこと。

 第四は、消費者への直接販売等、ダイレクトな流通システムを開発し、流通
コストを削減することで、価格競争に勝てるようにすること。

 第五は、国内製造業者が、自ら、中国等に生産機能を移転させるか、中国等
の生産機能を活用したビジネスに転換すること。

 以上のいずれかを選び、3年間で結果を出さ なければならない。いずれに
せよ、これまでのビジネスモデルをそのまま維持することは困難である。

2−2.中国の経済成長がもたらす日本、韓国、台湾等への影響

 以上、述べたように、中国の繊維産業の成長は、日本への輸出を通じて、日
本国内の製造業に甚大な影響を与えている。同様に、韓国、台湾等の輸出企業
も中国との競合により淘汰が進んでいる。

 その一方で、中国に独資企業や合弁企業を設立し、生産機能を中国に移転し
た紡績、合繊メーカー、テキスタイルメーカー、縫製メーカー等の中で経営を
軌道に乗せたところは、グローバルな競争力を獲得している。

 また、「ユニクロ」を展開しているファーストリテーリングのように、直接
中国に進出していない企業でも、中国の生産機能を活用することで、短期間で
日本国内市場を制し、海外市場に進出しようとしている企業も出現している。

 韓国では、輸出企業が中国に生産を移転する段階から、内需向けの生産も中
国生産に切り替える企業が出てきている。

 台湾では、上海を中心とした中国沿海部に進出する企業が増えており、既に、
上海周辺に20万人、中国全土には120万人の台湾人が進出している。台湾
のファッション専門学校の卒業生の多くは上海等の大陸企業への就職を勧めら
れるという。

 このように、中国の繊維産業の成長は、周辺の国の繊維産業に大きな影響を
与えているのである。

 同時に、中国の経済成長により、中産階級、富裕な階層が増加し、新たな
マーケットが誕生しつつあることも見逃せない。周辺の国の繊維産業との競争
に打ち勝って獲得した外貨により、ファッション消費が増え、日本、韓国、台
湾等で生産したテキスタイル製品やアパレル製品を輸入するという動きが出て
きているのである。

 つまり、日本、韓国、台湾等にとって、中国の成長は三つの現象を招いてい
ると言える。

 第一は、中国と直接的な競合にある産業、企業等にとっては、最強の競合相
手が出現したということである。

 第二は、中国の生産機能を活用する産業、企業にとっては、強力なパート
ナーを得たということである。中国とのパートナーシップによりグローバル競
争に勝てる可能性が出てきたのである。

 第三に、新たな巨大消費市場を得たということである。中国の12億の人口
のうち、1割が中産階級になったと言われる。つまり、日本の人口(1億2千
万人)と同じスケールの市場が新しく出現したのである。

2−3.日本の成長パターンを辿る韓国、台湾、中国等の繊維産業

 韓国、台湾の繊維産業の成長のパターンは、日本のそれと酷似している。

 民族衣装等のファッション文化という意味ではなく、あくまで産業として見
た場合、日本の繊維産業は外貨獲得を目的とする輸出産業としてス タートし
たと言えるだろう。

 日本の繊維輸出産業が成長した理由は、民族衣装である「きもの」によって
蓄積された高度なテキスタイルのノウハウ、手先が起用で教育の行き届いた豊
富な人材、西欧諸国の最新技術をいち早く導入したこと、そして人件費の低さ
であった。

 第二次世界大戦後は、開放されたアメリカ市場への輸出によって繊維産業は
復興していった。

 しかし、1970年にアメリカとの貿易摩擦が生じ、政治的な理由から輸出
を自主規制せざるを得なくなる。また、経済成長と共に人件費も高騰し、海外
競争力が低下していくのである。

 そこで1970年以降、日本はアメリカの既製服メーカーのノウハウを導入
し、輸出から内需への転換、テキスタイルからアパレルへの転換を図った。

 日本の輸出の主役は繊維から自動車や家電製品、半導体等へに交代し、これ
らの新しい産業が順調に輸出を伸ばしたことで、日本は高度経済成長をとげた。
国内消費は伸長し、大衆ファッションブームが起きた。こうした好循環により、
日本のアパレル企業は世界でも有数の規模に成長したのである。

 また、紡績、合繊メーカーは、いち早く韓国、台湾等に生産拠点を移した。
そのことが、韓国、台湾の輸出企業を押し上げていった。欧米への輸出基地は、
日本から韓国、台湾等へ移転したのである。

 その後、韓国、台湾も内需が拡大し、アパレル企業が成長する。日本が東京
オリンピック後に急激に内需が拡大したのと同様、韓国はソウルオリンピック
後にファッション消費が急激に拡大したのである。

 現在の日本のアパレル市場は、輸入品が7割を越えており、中国からの輸入
は、その8割を占めている。繊維関連の国内製造業の空洞化が危惧されている
所以である。

 しかし、中国の繊維産業もまた、日本からの技術移転、資本投下によって成
長してきたことを忘れてはならない。

 日本の繊維産業は、製造業の機能を活用した「輸出型製造業」「内需型製造
業」を経て、豊かな市場を基本とする「輸入型流通サービス業」、海外の生産
機能を活用する「企画&マーケティング業」、独自のブランドを展開する「ブ
ランドプロデュース型製造小売業」等に転換したと見ることもできる。

 そして、この流れは韓国、台湾にも波及していくに違いない。ある意味で、
日本の繊維ファッション産業の状況は、常に韓国、台湾、中国等の先行指標と
もいえるのである。

2−4.WTO加盟以降の中国の繊維産業の課題

 中国は、国際競争力が獲得できる産業として繊維産業を選択し、繊維産業に
よる外貨獲得と経済成長を目指す「繊維立国」構想である。

 現在の中国の繊維産業の中心は「装置産業」である。装置産業が目指すのは、
設備投資をして、工場を設立し、人手を確保し、設備の稼働率を上げることで
ある。自社で商品リスクを持つのではなく、外部の企業の注文に応じて、製造
加工をする形態であり、言い方を変えれば「下請け的な仕事」である。

 市場や企業が成長を続ける限り、最も合理的な業態だが、問題は成長が止
まったときである。日本の繊維産業も経験しているが、設備が余剰になり、流
通在庫が増え、製品価格や工賃水準が暴落するという現象が発生する。

 日本でも、需給バランスの調整のために、設備の共同廃棄や生産調整を行っ
たが、中国が同様の事態に陥ることも十分に予測できる。

 日本がそうであったように、中国も下請けではなく「自立した産業」を目指
すことになるだろう。

 同時に、既存の工場は、更に中国の内陸部に移転していく。高速道路の整備
等がその動きを促進するに違いない。

 中国は、繊維産業から付加価値の高いファッション産業を目指すだろう。し
かし、機械設備と労働力を集めるだけでは、ファッション産業を立ち上げるこ
とはできない。外部からのノウハウ導入と人材育成が重要な課題として浮上す
るに違いない。

 最終的には、中国発のオリジナルブランドの育成が課題になる。その時に、
日本、韓国がどのような役割を担えるのか。中国に対するビジネスは、こうし
た将来の予測のもとに長期的なビジョンを持つべきである。

2−5.日本のファッション文化の広がりと「アジアネットワーク市場」

 台湾には「哈日族(ハーリーズー)」と呼ばれる日本大好き族がいる。日本
のテレビドラマ、タレント、アイドル、キャクターグッズ、ファッション、ア
クセサリー、アニメ、マンガ等に夢中になっているのである。このムーブメン
トは、北京、シンガポール、香港、上海等にも広がりを見せている。

 「哈日族」は極端な例だが、アジア諸国の若い女性のファッションは、着実
に日本の影響を受け、日本に近づいている。韓国ソウルも同様であり、地下鉄
に乗っていると日本と錯覚することがある。

 上海も台北と違和感がなくなっている。各国を回っていると、アジア全域が
共通するファッション市場を生み出そうとしていることが体感できるのである。

 一方の日本人も、アジア各地に気軽に旅行し、アジアのファッション、雑貨、
食物に親しんでいる。ベトナムに雑貨を買いに行く。韓国や台湾に、美味しい
料理とエステとショッピングを楽しみに行く。ファッション雑誌が「ソウル特
集」を組み、「タッカルビ」の美味しい店を紹介するのは珍しいことではない。
日本人の側も、積極的にアジアンテイストを楽しみ、影響を受けているのであ
る。

 これまでのファッションはあくまで欧米が中心だった。言い換えれば、欧米
への憧れが強かった。アジア諸国の日本ブームは、欧米とは異なる種類の憧れ
が出てきたということである。身近で等身大の憧れ。手に届くファッション。
そこには、欧米のファッションでは埋めきれないニーズが感じられる。ようや
く欧米ではない独自のアジアファッションの萌芽が出現したのかもしれない。

 日本ブームは短期間で終わるかもしれない。アジア諸国がアイデンティティ
を確立し、自国のファッションを生み出すまでのつなぎの役割を果たしている
ようにも感じるのである。各国が独自のファッションを生み出し、多様なアジ
ア・クリエーションが生まれる可能性は高い。しかし、当面は、日本のテレビ
や雑誌がファッションをリードするのではないだろうか。

 しかし残念ながら、日本のファッション業界は、アジアの「哈日族」ニーズ
に対して、十分なビジネス的なアプローチを行っていない。私は、積極的にア
ジアの共通市場、アジア・ネットワーク市場を攻略すべきと考えている。

2−6.ネットワーク型連携によるビジネスの展開

 アメリカが提唱する「グローバル・スタンダード」は、実は「アメリカン・
スタンダード」の言い換えである。つまり、自国の原理原則、システムを世界
中に押しつけているのである。日本の企業であっても、外国の資本が入り、社
長が欧米から派遣されると、社内の文書、会議等は全て英語で行われる。

 自国のシステムを世界中に押しつけるという手法は、軍事力、金融力で世界
のトップに君臨するアメリカならではの強引な手法と言えよう。

 アジアには、多様な言語、宗教、人種が存在する。それらを強引に統一する
のではなく、多様性を積極的に許容し、ネットワーク型の連携を取ることが望
ましいだろう。各々が自立し、自立した国、自立した企業同士がネットワーク
で連携するのである。

 既に見てきたように、最早、一国が全ての生産機能を持つことは困難である。
日本、韓国、台湾、中国等が各々の機能を補完しながら、ビジネスを展開しな
ければ、アジアの消費者を満足させることは困難だろう。

 また、日本、韓国の企業にとって、国際化している自国マーケットにこだわ
るよりも、アジア全体のマーケットを攻略する方が合理的である。どの国で企
画し、どの国で素材を調達し、どの国で縫製加工し、どの国で販売するのか、
を自由に組み合わせることになるだろう。

 とは言っても、異なるシステムを持つ国が連携するのは困難である。ある国
の常識は、別の国では非常識になる。具体的な商取引の前に互いの信頼関係を
結ぶ段階で、様々な誤解や行き違いが起こるケースも数多く見られる。

 こうした問題を解決するには、どのような情報や理論が必要なのか。それを
分析、考察、提案することが、「アジアネットワーク研究」なのである。

 2−7.インターネットによるアジアネットワークの進化

 アジアネットワークの研究は、「異なる文化、伝統を持つ国がいかに連携し、
新たなビジネスモデルを確立するか」という課題を解決するものである。特に、
互いの情報公開、情報共有が大切になる。

 情報という面から考えると、現在のインターネットの進化は注目に値する。
韓国は「ブロードバンド先進国」であり、日本は「ケータイ先進国」である。
日本、韓国、台湾は、世界的に見ても、コンピュータ等の情報機器の生産機能
が集中している地域である。例えば、ノートパソコンや携帯電話に欠かせない
「液晶」の生産は、日本、韓国、台湾の3国で独占しているのである。

 前述した「哈日族」も、衛星放送、ケーブルテレビ、VCD等の情報技術の
普及が背景にある。アジア・ネットワークのファッションを考察するには、こ
うした情報システムの普及や活用という視点も重要になる。 アジアのイン
ターネットで重要なのは「翻訳機能」である。アメリカならば、英語で統一し
た方が合理的だと言うだろう。しかし言語は文化である。互いの言語を尊重し
た上で、なおかつ十分なコミュニケートが必要なのである。

 既に、相手のWEBサイトを自国語に簡単に翻訳できるソフトが存在する。
これらの翻訳精度は確実に向上していくはずである。また、翻訳機能を備えた
Eマーケットプレイスが増える。アジア各国が互いの言葉の壁を乗りこえた時
に、アジア・ネットワークは新たなる進化を遂げるのだろう。

3.具体的な研究テーマの提案

 これまで、日本の繊維産業は大部分が国内で完結していたと言える。

 欧米からの輸入とノウハウの導入もあったが、それらは輸入だけの一方通行
だった。また、アジア諸国における海外生産も、資本投下、技術指導、その商
品を輸入するという意味で、やはり一方的なものだったと言える。

 今回、提唱しているアジアネットワークとは、アジア各国が互いに影響を及
ぼしながら、ネットワーク型の発展をしていくという双方向的なイ メージで
ある。各国が互いの理解を深め、新たなビジネスモデルを構築していくことが
求められているのである。

 これまでの考察を基に、いくつかの基礎的な研究及び実践的な研究テーマを
以下に提案してみた。今後の研究の参考になれば幸いである。

3−1.アパレル生産ネットワークの研究
 サプライサイドのネットワーク研究である。アジア各国における繊維ファッ
ション関連の製造業の特性と比較研究が主となる。特に、各国の加工貿易など、
アジア域内の生産ネットワークのケーススタディを主体に、ビジネスに役立つ
研究を行う。

3−1−1.アジア各国のテキスタイル産業の実態調査と比較研究
 アジア各国のテキスタイル産業規模と内容の研究。どのような素材が得意で、
どのような役割分担がなされているか。各国の課題と今後の改善提案をまとめ、
アジア全体のテキスタイル産業のあり方を提言する。

3−1−2.アジア各国のアパレル縫製業の実態調査と比較研究
 アジア各国の縫製業の実態を研究する。各国の研究だけでなく、グローバル
ソーシングのように、それぞれの国がどのような得意分野を持ち、どのような
機能分担を果たしているかも研究対象とする。共通のフォーマットの元に、各
国の共同研究も。

3−1−3.日本商社の繊維事業の戦略研究
 日本市場がアジア最大である以上、日本の商社の動向がアジア全体に大きな
影響を与える。日本の商社の繊維ビジネス研究を行うことで、アジア全体の
ファッション産業の動向を占う。

3−1−4.アジア生産オペレーションのケーススタディ
 具体的な企業、ブランドを設定し、原料の調達、縫製基地、物流、最終的な
販売地域とチャネル等をケーススタディする。アジアにおける生産ネットワー
クの実態を研究する。

3−1−5.アジア各国のアパレル企業におけるブランド研究
 欧米のライセンスブランド、オリジナルブランド等、アジアのアパレル企業
がどのようなブランドを展開しているのか。そして、ブランド戦略をどのよう
に考えているかを研究する。今後のブランド戦略に対する提言も行う。

3−1−6.中国のテキスタイル産業の動向と周辺への影響
 中国のテキスタイル産業の成長と、それが与える周辺国の影響の研究。中国
との連携をどのように考えるべきか、中国のパワーにどのように対応するのか
を提案する。

3−1−7.中国のアパレル縫製産業の動向と周辺への影響
 中国の縫製産業の成長と、それに伴う賃金レベルの変化、縫製工賃の変化、
それが与える周辺国の影響を研究する。関連研究として、日本の縫製機器メー
カーの戦略等も。

3−1−8.繊維セーフガードの実例と効果
 2001年になって日本の繊維業界団体は初めて、繊維セーフガードの発動を申
請した。繊維セーフガードの発動がどのように行われ、どのような結果をもた
らすかを検証する。同時に、セーフガードという制度自体の有効性、WTO体
制における産業政策、貿易政策等の研究も行う。

3−1−9.欧米からのノウハウ導入の実態とケーススタディ
 日本のアパレル企業がアメリカの既製服企業からノウハウを導入したように、
アジアのアパレル企業も欧・米・日の様々なノウハウを導入している。その実
態を検証し、日本との比較研究等から、今後の方向性を提言する。

3−2.アパレル市場ネットワークの研究
 アジアに共通する市場の研究。ファッション雑誌、インターネット、店舗等
のメディア研究、ストリートファッションの研究等。数量や金額という定量的
な要素だけでなく、情報の影響力やファッションの質といった定性的な研究も
行う。

3−2−1.アジア各国のヤングファッションの共通性と差異
 アジアのファッション都市の定点観測、グループインタビュー等により、ア
ジア各国のヤングファッションの共通性と差異を検証する。その背景となる固
有の文化の違い等の分析も行う。

3−2−2.「哈日」現象の研究
 台湾に端を発した「哈日」現象は、北京、シンボポール等に飛び火し、アジ
ア全体に影響を与えようとしている。その実態を研究し、新たなビジネスの可
能性を探る。

3−2−3.東大門市場と渋谷系専門店のオペレーション研究
 韓国、東大門市場のアパレル企業は、情報収集から現物生産までのサイクル
が非常に短い。それを利用して成長したのが、東京、渋谷の専門店企業であり、
同時に、韓国のアパレル企業も日本への輸出で成長した。日本のファッション
ビルに韓国製品が集積されたり、日本国内に事務所を開設するなど、様々な波
及現象が見られる。それらを総合的に検証し、今後の日韓のファッションビジ
ネスの連携について提言する。

3−2−4.エンターテイメントとファッションの関連性
 映画、テレビに出演するタレントや歌手等がファッションに与える影響は大
きい。衛星放送やケーブルテレビの普及により、アジア諸国に日本発の情報が
流入している。それらの実態とファッションに与える影響について研究する。

3−2−5.各国のファッション雑誌の比較研究
 各国のファッション雑誌の比較研究。トレンドがどのような移っていくか。
人気ランキングや特集記事の比較等から、継続的な分析を行う。また、ファッ
ション雑誌が与えるファッションビジネスへの影響度等をについても研究する。

3−2−6.日本におけるアジアムーブメントの研究
 日本のファッションがアジア各国に影響を与えているのと同様、アジア各国
のファッションが日本にも影響を与えている。ここでは、日本におけるアジア
ファッションの影響について研究する。

3−2−7.各国の新人デザイナーと作品の研究
 アジア各国では、様々な新人デザイナーコンテストを行っている。同時に、
コレクションデビューする新人デザイナーも数多い。それらの新人デザイナー
の作品の傾向を、それぞれの市場特性と比較しながら研究していく。

3−2−8.キャラクターグッズとキャラクタービジネスの研究
 ハローキティ、スヌーピー,セーラームーン、ポケモンなど、日本で人気を
集めたキャラクターがアジアでも人気を博している。それらのビジネスの規模
も非常に大きい。どんなキャラクターがどのような商品を展開し、ビジネスと
しているかを研究する。

3−2−9.「カワイイ」感覚の研究
 西欧諸国では、成熟した大人の女性を評価するのに対し、日本では若いこと、
小さいことを形容する「カワイイ」という感覚が重視される。そして、その
「カワイイ」ファッションはアジアでも評価されている。「カワイイ」を比較
研究する ことで、アジアオリジナルファッションへの可能性を探る。

3−3.繊維ファッションのインターネット活用研究
 日本、韓国、台湾は、世界的なハイテク生産国であり、独自の言語を持って
いる。ファッションに関するサイトも数多い。今後も発展するであろうイン
ターネットを活用したファッションビジネスのケーススタディを継続的に行う。

3−3−1.繊維ファッション関連企業のWEBサイト比較研究
 ファッション関連企業がどのようなWEBサイトを展開しているか。どのよ
うに活用しているかのケーススタディ。企業研究であると同時に、インター
ネットメディア活用の研究でもある。ノウハウを蓄積し、企業へのコンサル
ティングができるレベルを目指す。

3−3−2.繊維ファッション商品のEマーケットプレイスの事例研究
 既に、繊維ファッション関連を含む一部の商品カテゴリーでは、インター
ネット上のEマーケットプレイスが機能している。これらをケーススタディし、
新たなEマーケットプレイスのあり方、その活用の方法を研究する。

3−3−3.消費者向けのファッション関連サイトの比較研究
 いわゆるB2Cサイトの研究。様々なサイトを紹介しながら、評価の基準を
定め、ある種の格付けを行い、情報発信をしていく。具体的な格付けサイトの
構築等の企画運営等についても検討。

3−3−4.インターネットによる新人クリエイター育成の研究
 インターネットを活用した新人クリエイター育成の研究と実践。ネット上の
コンテスト、ビジネス支援等を研究しながら、具体的なサイト運営を行う。

3−3−5.インターネット活用の新しいファッションビジネスの事例研究
 インターネットを活用したファッションビシネスのケーススタディ。新しい
ビジネスモデルの研究。特に、ハイテクを駆使したオーダーメイドビジネス、
1to1マーケティング等を新しいモデルとして注目する。

3−3−6.インターネットを活用したマーケティングリサーチの研究
 インターネットを利用した様々なマーケティングリサーチが登場しているが、
それらの手法と実態を比較研究しながら、新しい時代に有効なリサーチ手法に
ついて探っていく。また、リサーチ結果をどのように、実際の企画、生産に活
用しているかを研究する。

3−3−7.店舗のプロモーションと携帯電話、PDA等の活用研究
 アメリカでは、店頭とパーム等のPDAを連携させる新たな販売促進手法が
試みられている。日本でも、無線による情報データ交換ができる携帯電話も実
用化する予定である。こうした最新の情報技術を応用した店舗支援をケースス
タディする。

3−3−8.デジタル技術を活用した新しいファッション情報媒体の研究
 画像の配信が可能な携帯電話、簡単に画像配信ができる電子メール等により、
ファッション雑誌とは異なるファッション情報媒体の出現が予想される。そう
した情報技術の活用に関する研究。具体的な実証実験をも目指す。

3−3−9.ファッション商品のEコマース研究
 ファッション商品のB2B、B2CのEコマースの研究。国内だけでなく、
アジアの範囲で共通したコマースのシステムが開発されれば、更にアジアネッ
トワークの動きが加速されるだろう。Eコマースの研究と共に、具体的なビジ
ネスモデルに関する研究も行う。

3−4.ファッション教育、ファッション産業の人材育成
 日本をはじめとしてアジア諸国にとって、西欧のファッション文化は固有の
文化ではない。そのための共通する課題を解決するための研究を行う。西欧の
キャッチアップだけでなく、アジアの特性に対応した新しいファッション、ア
ジアならではのオリジナルファッションの創造が重要なポイントとなる。

3−4−1.ファッション教育におけるインターネット活用の研究
 画像や音声を扱える上、遠隔地の受講も可能なインターネット教育(「e
ラーニング」「eスクール」等)が進んでいるが、特に、ファッション教育に
は有効なメディアであり、今後の発達が期待される。そのケーススタディとイ
ンターネット教育のあり方を研究する。特に、国境を越えて仕様できる教育コ
ンテンツの開発を目指す。

3−4−2.ファッション専門教育機関のコース、カリキュラムの比較研究
 既存のファッション教育機関がどのようなコースを設け、どのようなカリ
キュラムを組んでいるかを比較研究する。また、アメリカ、ヨーロッパ等とも
比較し、新しい時代の教育プログラム作りを目指す。

3−4−3.デザイナー教育の課題と目指すべき方向性
 クチュールから既製服、そしてブランドビジネスへとファッションビジネス
の内容が変化するにつれ、デザイナーに求められる資質も変化している。こう
した新しいデザイナーをどのように育成するかを研究する。既存の教育機関の
教育プログラムに対し、具体的な提案を行う。

3−4−4.パターンメーカー教育の課題と目指すべき方向性
 グローバル化するファッションビジネスにおいては、ますます高度な服づく
りの技術が要求される。イタリアのモデリスタは、テーラー職人が既製服企業
へ転身した例が多いが、パターンと縫製までのトータルな服づくりのノウハウ
の獲得が欠かせない状況である。また、CADの普及と共に、パターンメー
カーの業務内容も変化している。こうした現状に対応するためのメターンメー
カー育成の教育プログラムを研究する。

3−4−5.販売職の育成プログラム研究
 SPA等に見られるように、アパレル企業の業務範囲が小売業に拡大してい
る。顧客と直接接する販売職の重要性は高く、専門教育機関及び効果的な教育
プログラムが求められている。企業内教育等の実例を研究しながら、販売織の
育成プログラム構築を目指す。 

3−4−6.各国のファッションコンテストの実態及び課題
 アジア各国で様々なファッションコンテストが実施されている。それらの実
態調査を行う。入賞作品の傾向や、受賞デザイナーのその後について事例をあ
げて研究する。

3−4−7.繊維ファッション関連企業の職種別評価基準と報酬システムの研

 繊維ファッション関連企業において、どのような職種に分かれ、それぞれが
どのような業務を担い、どのような評価基準と報酬システムを持っているかを
調査研究する。ここでは、欧米の先進企業の研究を重視する。

3−4−8.ファッション関連の人材データベース研究
 ファッション関連の人材派遣機関、人材データベースに関する研究。専門学
校等の卒業生を有効に活用するには、何らかの人材データベースが必要になる。
具体的にデータベースを構築することを前提にした実務的研究。

3−4−9.繊維ファッション企業のアウトソーシングの実態研究
 日本のヤング向けアパレル企業が生産管理業務をアウトソーシングしている
ように、アパレル企業内で行う業務と、アウトソーシングする業務が分かれて
きている。その実態を調査し、人材育成のあり方を探る。

3−5.伝統文化、民族衣装と現代ファッションの研究
 アジア諸国のファッションの特徴の一つは、優れた伝統分化、民族衣装を
持っていることである。西欧文化を導入する際、自国の文化を軽んずる傾向が
強いが、最終的には国や民族のアイデンティティが問われる。そこで、各国の
伝統文化、民族衣装が、現代社会の中でどのような関わり合いを持っているか
を研究し、アジアのオリジナルファッション創造につなげていく。

3−5−1.西欧の服(洋服)とアジアの民族衣装の比較研究
 乾燥した地中海沿岸の気候と、湿度の高いアジアモンスーン気候の違いは、
それぞれの民族衣装に大きな影響を与えている。また、キリスト教と仏教、儒
教等の価値観の違いも衣服に影響を与えている。そうした背景を踏まえて、洋
服とアジアの民族衣装を比較研究する。

3−5−2.アジア各国の民族衣装の比較研究
 アジア各国の民族衣装にはそれぞれの特徴がある。それらを比較研究し、文
化の違い、価値観の違い、現代におけるファッションに対する意識の違い等を
探っていく。

3−5−3.現代ファッションにおける民族衣装及び伝統的価値観の影響
 民族衣装に見られる伝統的価値観は、現代ファッションの中にも姿を変えて
息づいている。各国のファッションのアイデンティティにもつながる伝統的価
値観について研究する。

3−5−4.各国の気候とファッションの関連
 ヨーロッパの地中海性気候は、年間を通じて乾燥している。そのため、家も
服も密閉型の構造となっている。アジアのモンスーン気候は、特に夏の湿度が
高く、家も服も開放的である。このような気候の違いとファッションの関連性
を研究し、アジア独自のファッション・アイデンティティを確立する。

3−5−5.民族衣装のテキスタイル研究
 民族衣装に使われるテキスタイルには、独自の文化に基づく高度な技術が用
いられていることが多い。そのテキスタイルを研究し、現代のファッションに
生かしていく。

3−5−6.民族衣装の影響が強いデザイナー、ブランド研究
 アジア各国のファッションデザイナーには、グローバルな服を創造するデザ
イナーと、民族衣装を土台とした民族的な色彩の強いデザイナーが存在する。
前者は世界的に有名になることもあり本格的と表されることが多いが、ここで
は、後者を研究することで、アジアファッションの独自性を抽出する。

3−5−7.西欧のサブカルチャー、アバンギャルドとしてのアジアファッ
ション研究
 日本の浮世絵はヨーロッパの画家に多大な影響を与えた。また、コムデギャ
ルソン、ヨウジヤマモトもパリのファッション界に衝撃を与えた。このように、
西欧の伝統や価値観と異なる日本及びアジア各国の価値観は、西欧社会ではア
バンギャルドと理解されることが多い。西欧でアバンギャルドとされるファッ
ションとアジア各国の伝統や価値観を比較研究する。

3−5−8.民族衣装から洋服への転換とライフスタイルの変化
 民族衣装から洋服への転換は、衣服だけの問題ではなく、衣食住を含む生活
スタイル全体を変化させた。アジア各国のライフスタイル変化を比較研究し、
今後の市場予測等に応用していく。

3−5−9.アジアのファッションアイデンティティ研究
 西欧の服に対する東洋の服、あるいはアジアの服を確立することは、世界の
ファッション市場の中で独自の地位を築くことにつながる。アジアのファッ
ションアイデンティティとは何か、を研究し、世界中に情報発信を行い、アジ
ア独自のファッション創造に寄与する。

4.アジアネットワークの研究をアジアネットワークで(結び)

 今後、アジア各国の経済、文化、ファッションは、ネットワーク型で発展
していくと予想される。

 以上、アジアネットワークとファッションという視点で、45の研究テーマ
案を提示した。これを一つの試案として、今後のアジアネットワーク研究を進
めたいと考えているが、アジアネットワークの研究には、やはりネットワーク
体制での共同研究、比較研究が欠かせない。

 国の境界を取り払い、産業界と教育界とが連携しながら、新しいコラボレー
ションを生み出し、研究から実践へと飛躍したいと考えている。

 アジア各国の皆様が、アジアネットワーク研究部会に参加されることを心よ
り希望する次第である。◆